Chapter2
アフリカの色彩
アフリカの“光”に最初に出会ったときのこと
94年、初めてアフリカの大地を踏んでから既に30回以上、12ヵ国のアフリカ諸国を訪ねた。そこでいつも驚かされてきたのが、アフリカの人々の音楽やアート、ダンスなどの才能だ。アメリカナイズもヨーロッパナイズもされていないオリジナルがそこにあり、驚くべき才能があちらこちらに様々な形で存在している。その才能は未知数。今回は、私がそのアフリカの“光”に最初に出会ったときのことを記そうと思う。最初に衝撃を受けたのは、ケニアのナイロビにある『アフリカン・ヘリテージ』というアフリカン・アートや民芸品を一堂に集めたギャラリーでのこと。所狭しと並べられた様々なアフリカン・アート。タンザニア出身のアーティスト“ムパタ”の一番弟子“リランガ”が瓢箪に彫った線画アート。ナイジェリアのオショボ派を代表するアフォラビ、フェミ・アロの作品等々……アフリカ中から様々なアートや限りなくアートに近い民芸品の数々は、その質の高さを見事に物語っていた。
市内にあるマーケットにも面白いものはあるが、アートという観点から見るとヘリテージにおいてある作品は、たとえ民芸品でもその域を超えていた。空間自体 のディスプレイも見事だったし、体育館ほどの広さを持つギャラリーは、優しい日差しとゆっくり流れる時間がそれぞれのアートをより一層、質の高いものに変えていた。その質の高いアートの中で私が特に目を奪われたのが、ナイジェリアの作家、“フェミ・アロ”の作品だった。どうしたらこんな憎らしい、でも愛嬌のある絵が描けるのだろう……。どんなに嫌なことがあった日でも玄関でこんな絵が出迎えてくれたら、思わず笑っちゃうだろうなぁ……無性に彼に会いたくなった。
夢のような光景を想像したけど
翌年、私はアフリカのエキスパートである友人に同行を頼み込んでナイジェリアに飛んだ。持っている情報は、ナイジェリア人であることと“フェミ・アロ”という名前だけ。ヘリテージのスタッフは、学生だと思う……と言っていたが定かではない。日本にいた僅かな時間でオショボという場所にアーティストが多く住んでいることを知った。植民地解放後、オーストリア人のウリ・バウアーという人がこの地でアートを教えたのだそうだ。私は、自分の頭の中で勝手に情報を組み立て、“のどかな草原の中に30世帯ぐらいの集落があって、そこにアートをする若者がゆったりと流れる時間に包まれ て絵を描いている……そして私がアロを訪ねると彼は、真っ白な歯を見せてゆっくりと手を振りながら「ようこそ」”……なんて夢のような光景を想像し、オショボに行けばいとも簡単に彼に会えるものだと思い込んでいた。ところが、行き着いたところは、ナイジェリア第3の州都。人・人・人。ポンコツだけど車・車・車。30世帯???一瞬にして私の勝手な想像は打ち砕かれた。そしてそこからが、大変。オショボ滞在は5日間。まずは、ギャラリーを探し、ギャラリーのスタッフに「フェミ・アロって知ってる?」と聞いてみる。皆顔を 見合わせて「知らない」……沈黙。友人が私に聞く。「本当にオショボのアーティストなのか?」……「判んない。でもそうだと思う……」 想像していた風景が存在していないのだから、そう答えるしかなかった。
驚くべき才能のアーティストばかり
翌日、オショボ派の代表的な作家、Twins77を訪ねた。77は不在だったが、彼のスタッフが「フェミ・ジョンソンなら知ってる」と僅かな希望の光を差し込んでくれた。また、そこでも勝手に「そうか、フェミ・アロというのはアーティストネームで本名はフェミ・ジョンソンなのかもしれない!!」と思い込み、とりあえず、そのフェミ・ジョンソンに会いに行ってみることにした。若いその作家は、すごく礼儀正しく私に握手を求めてきた。
きっと彼に違いないと思ったのだが、作品を見せてもらうと全く違う……。悪くはないがあの小憎たらしいアロの絵ではない。お詫びの代わりに彼の作品を数点購入し、また振り出しに戻った。友人は呆れ顔だし、さぁどうしようかと思っていたらTwis77のスタッフが「そう気を落とすな。俺たちが探してやるよ」と言ってくれた。本当にいい人たちだ。ともかく、オショボのアーティストに会いまくることにした。
ところが、そこからものすごい出会いが始まった。会うアーティスト、会うアーティスト驚くべき才能のアーティストばかり。同じオショボ派でも皆、それぞれがオリジナリティーを持っていて手法も違い、その完成度は驚くほど高い。棚から牡丹餅じゃないけど、感動の嵐。3日目には、ホテルに自分の作品を持ち込むアーティストまで出てくる始末。私は、アートのプロデューサーじゃないんだけどなぁ……と思いつつ、あまりに刺激的な作品を次々に買いまくってしまった。後になって知ったことだが、その中には、アメリカやヨーロッパでかなり有名な作家もいて、特にルーファス・オグンデレやアフォラビは、日本でも世田谷美術館などで紹介されているアフリカを代表する作家なのだそうだ。
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