Chapter23
2010年1月もう一つのアフリカ_vol.2
2010年1月もう一つのアフリカ_vol.2
前回の『アフリカの風』では、南アフリカのことを語る時、決して避けてはとおれない “アパルトヘイト”に関してラスタの友人(B・Z・ジョージ。49歳)にインタビューしました。 今回は、その続きです。アパルトヘイト完全撤廃から15年経った“南アフリカの今”を中心に話を聞きました。今、実際に起こ っている南アフリカの真実を知って下さい。尚、このインタビューは2009年3月に行われたものです。
Q.ANC (アフリカ民族会議)について教えてください。 ANC とは何ですか?
A.ANC はムーヴメントなんだ。我々の祖先によって始められたムーヴメントだ。底辺の人間を支援するはずの政党だ。
Q. ネルソン・マンデラ氏は ANC ですか?
A. そう。
Q.ANC の活動がアパルトヘイト撤廃に結びつきましたよね?現在の ANC は当時と比べてどうですか?
A. 変わったね。今日では黒人が大統領に就任して、議会もあらゆる人種が混じってレインボーネイションと呼ばれている。当時、 ANC は頑張って良い変化をもたらしてくれた。でも今の ANC は・・・というと汚職議員がいたり、起訴されたズマ議長がいたりして問題を抱えている。 ANC が悪いというよりは、 ANC 内部の一部の人間が悪いんだ。
Q. 今は若い世代と上の世代との間で ANC はふたつに分かれていると聞いたのですが?A.ANC が二つに分かれたのはこれが初めてではないんだ。私は 1960 年に生まれたので父親から聞いた話だが、 50 年代にも ANC は二手に分かれて、そこから PAC (パンアフリカニスト議会)が派生したんだ。すべては変化していく。ある者はその変化を拒否する。そういうものだ。しかし、物事をうまく進めるには妥協も必要だ。父親は ANC だったが、 PAC が派生したときに PAC に参加したんだ。彼は、アフリカニストはアフリカニストであるべきだ、自由や土地を手に入れるべき、と信じていたから。ここらの家はすべてアパルトヘイト時代の家なんだ。自由になったら、「ずっと家賃を払っていたんだからもうこの家をあげるよ、自立してくれ」というふうになると期待していたど、今でも家賃を払っている。外の路面は 60 年代から変わっていないし、観光客が見える道路だけきれいに舗装するんだ。でもメインロードから一本それるとひどいものだ。 ANC に失望している人は大勢いるよ。
Q.4 月の大統領選挙で ANC から新大統領が生まれるかもしれませんね?
A. そうだね。
Q.ANC のズマ議長が大統領に就任する可能性についてどう思いますか?レイプ容疑を回避するために大金を払ったと聞いたことがありますが。
A. 彼が大統領になる可能性は高いね。彼に関しては、悪い評判が次々と出てくる。でも真実は判らない。どちらにしても汚職容疑などで今の ANC は多くの問題を抱えているんだ。
Q.ANC と他の政党が対立していますよね?
A.IFP (インカタ自由党)のことだね?
Q. もし ANC と IFP の間で武力闘争が始まれば 2010 年のワールド・カップはなくなるのでは?
A. そうだね。その心配は確かにある。 IFP と ANC の問題はアパルトヘイトの時代から続いている。
Q. 同じ民族同士ですか?
A. 私も今それを言おうとしていたところだ。 IFP はどちらかというとズールー民族で、一方 ANC はコーサ民族。マンデラ氏もコーサ民族だ。で、ズマ議長はズールー。これは主にコーサとズールーとの対立だ。我々ラスタにとって、ズールーもコーサも同じ人間だ。コーサ民族はズールー民族から派生した。アフリカ南部はみんなズールーだったんだ。それが戦争やらで人々が散らばって、ある者は頬を切って新しい民族を作り、ある者は耳に大きな穴を空けて新たな民族を作る。そうして新しい言葉も生まれていった。ズールーのシャカ王がズールー民族を白人植民地主義者と戦わせた結果、いろんな民族が生まれたが、みんな元はひとつだ。悲しい話だ。
Q. 南アフリカではズールー民族が一番多いですよね?
A. そのとおり。
Q.ANC はどう未来に作用するでしょうか?
A. 個人的にはネガティブに作用すると思う。
Q. 例えば?
A.ANCが認める中絶や同性婚は罪深いことだ。アダムとイヴによって我々はつくられ、子供を世に送り出していかなければならない。中絶には絶対に賛成できない。赤ん坊が殺されて生まれてくることができないなんて・・・未来を殺しているのと同じじゃないか。それを認めることなんてできない。まだまだ問題はある。今の南アフリカはあまり良い状態ではないね。
Q.2010 年のワールドカップの後、南アフリカはどう変わると思いますか?
A. 良い変化と悪い変化があるだろうね。職は増えるかもしれないけど、中には誇りを捨てて妥協しなければならないかもね。外からやって来る、いわゆる西欧人にへつらわなければならないかもしれないからね。うまく言えないけど、それは悪い変化だ。良い面と悪い面がある。特に我々ラスタは物事を違う角度から見るようにしている。心配なのは、西欧から入ってくる何かが我々の人生に悪影響を及ぼすことだ。南アフリカは西欧人に柔軟に対応するためにアフリカへの玄関口になっているから。
Q. 例えば、先進国の人々は ANC と IFP の現状況を知らなくて、南アフリカは民族闘争などは無いと思っているかもしれませんが、 ANC と IFP の騒動が始まれば人々の見方も変わってしまうのでは?
A. そうだね。そうなれば誰も南アフリカには来ないだろうね。
Q. もし政治が安定し、治安の悪化が治まれば、サファリ、ケープポイント、ダーバン等の観光資源、ダイヤ、金、ウラン、天然ガスなどの鉱物資源やエネルギー資源、美味しい魚や牛肉、ワイン・・等々、南アフリカには将来的に期待出来るものが沢山あります。それに日本より走りやすい舗装された道路は、流通を含め、様々な可能性を見出します。アパルトヘイトが廃止されて 15 年経ち、少しずつ状況が良くなっているのに、ここで政党同士の対立が激化すればすべてが台無しになってしまいます。それに関してどう思いますか ?
A. そうだね、対立は避ける必要がある。 ANC と IFP は考え直して対立を止めるべきだ。今大事なのは、みんなで力を合わせて国を良くしていくことなんだけど・・・。Q. その他に南アフリカが抱えている問題は何ですか?
A. う~ん、色々あるけど、やはりエイズかな。特に若者のエイズは大きな問題だ。
Q. それはググレトですか?南アフリカ全体ですか?
A. 南アフリカ全体の問題だよ。
Q. ググレトでもエイズ患者は多いですか?
A. 多いよ。
Q. 多くの人がコンドームを使用しませんよね?それはなぜですか?宗教の問題ですか?
A. なぜかな。単に気持ち良くないと思うからだと思う。それで病気になってしまうかもしれないのに。
Q. 他国の NGO から支援を受けていますか?
A. ああ、受けている。頑張ってくれているよ。問題は、南アフリカの若者の行動だ。一時期は、他国の NGO の協力もあってエイズの状況も改善したんだよ。今でも都市部のある程度の暮らしをしている人たちの間では、エイズの状況は改善されている。でも、置き去りにされた貧困層の・・特にスラムの子供たちは学校にも行けず、自暴自棄になっている。彼らはドラッグを使用してセックスをしまくって・・特にググレトでは飲酒問題がひどい。
Q. 子供も?
A. そうだよ。子供の飲酒問題がひどいんだ。特にスラムがひどい。酒を飲んだり、ドラッグをやったり、ものを盗んだり、殴り殺されたり・・・たくさんの男の子たちが人生を無駄にしているよ。最近で 13 歳や 14 歳ほどの女の子もドラッグに手を出している。
Q. どんなドラッグですか?
A. 主に TICK だ。$ 2 ~$ 3 で買えるんじゃないかな。
Q. コカインのようなものですか?
A. 袋に入れて吸うんだ。そしてハイになると眠らない。部屋が綺麗でも、ずっと掃除してるよ。吸うと絶対に寝ないんだ。体がボロボロになって死んでしまうよ。
Q.TICK はどの国で生産されているのですか?
A. 判らないな。 TICK は白い粉なんだ。危険で安いんだ。そうとう安くて蔓延してる。カラードの地区から流れてくるんだ。白人も介入して大変だ。酒と麻薬が大きな問題だね。子供は未来なんだ。子供が酒やドラッグに溺れている現状は最悪だ。
Q .アパルトヘイトの時は、ドラッグの状況はどうでしたか ?
A. 全く無かったわけではないけど、これほど酷い状況じゃあなかった。今では、南米をはじめ諸外国からコカインやヘロインや・・・多くのドラッグが入ってきて最悪だよ。特に安価な TICK が流行し始めてからはね。
Q. 南アフリカの現状をどうお考えですか?
A. 今の南アフリカか・・・どうかな。もっと自由になると思っていたが・・民主主義・・・アフリカではなぜか民主主義はうまくいかない。これは言いきれる。少しはうまくいくかもしれないが、はたしてアフリカ人に合っているか?
Q. 今、あなた自身が抱えている問題は何ですか?
A. 職がないことだね。アパルトヘイト時代は仕事があった。今と違って、当時は 20 年も働けば扶助金が与えられた。今では 6 ヶ月や 12 ヶ月契約で仕事は終わりだ。
Q. ググレトに今、ショッピングモールが建設されていますよね?そこで仕事は?
A. あればいいんだけどね。無職は辛いよ・・・。
Q. 考え方を少し変えればビジネスをするのは難しくはないと思います。
A. もちろん。母親はビジネスをしていたんだ。チキンの羽をむしってチキン料理をつくっていたよ。もし、ゲストハウスやネットカフェ、コーヒーショップなんかできたらいいな。兄がうまい料理を作るんだ。次来たら御馳走するよ。
Q. 有難う。では最後に次世代を担う子供たちに望むことは?
A. 健康だね。健康であれば、何でも出来るさ。
インタビュー: 浅野典子/翻訳:梶谷雅文
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