Chapter17｜African JAG

Chapter17

南アフリカ/ゲットーから

2008年3月3日～4月8日までAfrican JAGのメンバーとしてマラウイ、南アフリカの支援及び視察に行ってきました。今回は、南アフリカ／ゲットーの最新情報をお送りします。2010年にワールドカップを控え、国のあらゆるところでスタジアムや地下鉄の工事が行われている南アフリカ。ちょうどこの時期、ケープタウンで年に一度行われる“JAZZフェス”にあたり世界中から観光客が訪れていた。現在、南アフリカにおいては、いわゆる都市、観光地のホテルや別荘は、アフリカとは思えないほど立派な建物で、レストランでは先進国と同じようなものが気軽に食べられる。日本食屋も勿論あり、そこそこ美味しかったりする。但し、料金も相当高く、3人で軽く飲んで食事をすればすぐにUS＄１００はいってしまう。到底、この国の通常世帯が支払える額ではない。ヨハネスブルグで労働者階級の一ヶ月の賃金を聞いたら約US$400～US$500、ゲットーに住む人々は、US$200位。スラムに住む人は、月US$100にも満たない。それでも他のアフリカ諸国の平均に比べれば相当高いが、物価も高いから結局は同じことだと思う。ともかく、南アフリカの二極化は、相当進んでいる。そんな中、今回はいわゆるゲットー、スラムに入り、そこに住む人たちの生活、現状を取材することが出来た。

ソゥエト／ストリートLIVE

数年前までは、アフリカで一番危険な地域と言われていた“ソゥエト”。強盗や殺人、銃の氾濫が言われ、夕方以降は、決して近付いてはいけないと念を押されていたところだ。今回、そのソゥエトでストリートLIVEが行われるという情報を入手。どうしても行きたくて足を踏み入れた。夕方5時。あたりが徐々に暗くなっていく。住宅街を抜けると少し危なそうな気配のエリア。人影も疎らで何となくゾクゾクする。しばらくすると空き地があり、数人の若者がたむろしている。“絶対ここだ!!”直感。空き地から裏路地に入る。薄暗い裏路地。舗装されていない道。その途中に簡易テントと簡単なステージが組まれている。そこが、ストリートLIVEの場所。チョット危なそうな地元の若者たちが集まっている。

白人もカラードも全く居ない。葉っぱの匂いが強くなる。私達は、真っ直ぐにテントに向かった。みんなの視線が一気に向けられる。でもビビル事は無い。テントの中には、このLIVEのオーガナイザーだというDJの若者がいた。私は、自分の職業とJAGのことを話し取材したいと申し出た。彼は、笑顔でOKしてくれた。MCがステージに上がるまで私達は、続々とその場所に集まってくる若者たちにインタビューをした。
「俺たちは変わったんだ。自分たちの手で。以前は、この街に沢山のギャングがいた。今も居ないとは言えない。でも銃を持っている奴はここから出て行った。ここには、政府が用意したポリスもいらない。コミュニティ・ポリス（自警団）で充分だ。俺たちには、音楽がある。銃を捨ててマイクを持て！！ってこと。ソエト、最高！！」・・・・なんか、感動した。

胸を張って自分たちの街を最高！！って、言える若者たち。みんな、目がキラキラしていた。なんか最近忘れかけていた感覚・・・自分の原点を感じた。
午後６時を過ぎた頃、辺りはもう暗くなっていた。テントの中でDJがレコードに針を置く。そこには、決して充分とは言えない機材。日本だったらもう誰も使っていないような古いもの。スピーカーもマイクも安物。照明も無い。でも彼らにはそんな事はどうでも良かった。ステージの周りにはいつの間にか数百人の若者が集まってきていた。MCがマイクを握る。歓声が上がる。こらえきれない興奮。MCが次々に替わっていく。リリックに耳を傾ける若者たち。キチンと歌詞を聴き、反応する。様々な反応。有名とか、無名とか関係なく、仲間が発するメッセージを本気で受け止める。彼らは、自分たちの手で未来を変えようとしていた。“銃を捨ててマイクを持て！！”ストリートから発するメッセージは本物だ。

ケープタウン／ゲットー＆スラム

ケープタウンの空港を車で出て左に曲がるとすぐにスラムと思われる一帯が目の前に現れ、それが延々と続く。ここが、Nyanga、Langa、Guguletu・・・etc.と言われ、数十万人が暮らすゲットー。ただし、そのほとんどがスラムで板張りの家にトタン屋根。最貧困層が暮らしている。このエリアは、今でこそ多少安全になったと言うが、それでも数多くのギャングスターが存在し、その30％　が銃を保有しているのだそうだ。ドラッグも蔓延していると言う。そして、そのほとんどが、アパルトヘイト撤廃後、海外から入ってきているものでヘロイン、コカイン、LSD、エクスタシー、そして今、一番問題になっているのがTICと言われるドラッグ（南アフリカ製）で11歳位の子供も使用していると言う。そのドラッグを使用すると平気で人を殺せるのだそうだ。ドラッグを使用して飲酒をし、SEXをする。勿論、コンドームなどは使用せず、その為、HIV/AIDSに感染する子供が増えている。TICの価格はR30.約400円。簡単に入手出来る。このドラッグは、今、南アフリカで大きな問題になっている。

ともかくパトカーの数が異常に多い。パトカーと言ってもただのパトカーではなく小型のバスで窓には鉄条網が張られ、その中に5人～6人の警官が乗り込んでいる。私達が、車で走っていると後ろからすぐに止められた。「このエリアは、危ないから充分注意するように！！」というお達し。ここにも白人、カラードの姿は一切無い。確かにメインストリートから一本中に入ると人々の目つきが変わる。しかし、こちらから微笑みかけると誰もが微笑み返してくれるし、親指を立てて歓迎してくれる。それでも私達だけで車の外に降りる事は出来なかった。まずは空気を感じ取ること。
ラガマフィンのMCであり、ソーシャルワーカーの肩書きを持つTEBAが、私達を案内してくれた。彼はここググレトの出身。ゲットーでの生活は、非常に厳しいものだったという。多くの教育を受けられない人々は、ゲットーの中でギャングになっていく。ドラッグに溺れ、死んでいく人々。アパルトヘイト撤廃後、政府は無料の教育を約束した。しかし、14年たった今もその約束は果たされていない。ゲットーに住む親たちは、自分の子供達がギャングにならないように、少しでも明るい未来が訪れるようにと子供が学校に行くためのお金を工面する。しかし、それはここゲットーの中では容易なことではない。
ググレトでは、ラッパーのクロスビーの家にも遊びに行った。26歳の彼は驚くほど自分の意見を持っていて、今の南アフリカの問題を熱く語っていた。（このインタビュー内容は、African JAGのHPに掲載するのでそちらを参照して下さい！！）

クロスビーは、私達をニャンガにあるラスタのコミュニティに案内してくれた。コミュニティに入った途端、警察の車が後ろにつき、車を止められた。私達がクロ　スビーに拉致されたとでも思ったのだろうか・・車を止めるとすぐに5人の警官が物凄い形相で降りてきた。私が「彼は友人だから・・・。」と言うと警官の顔が笑顔になり「この辺は危ないから、なるべく早く出なさい。」と言ってパトカーに戻って行った。どれだけ危ないところなのだろう・・・。その後も警察は、私達がコミュニティを出るまで近くをパトロールしていた。音楽の話しをして子供達と遊んでいただけだし、正直、みんなPeaceな奴らだったんだけど・・・。
スラムに住む人達の生活は、かなり厳しい。板張りにトタン屋根の家は、冬になると凍死するほど寒いのだそうだ。アフリカと聞くと“暑い”と思う人も少なくないだろう。しかし、ここ南アフリカは南極に近く、４月頃から８月末ぐらいまで物凄く寒くなる。以前７月に来た時は氷点下１℃だった。勿論、スラムに住む人の家には電気も無い。暖を取る術が無い。小さな家で家族全員が肌を合わせて眠る。そして夏になると家の中は50℃近くにもなる。ここの子供達の多くは、貧しくて学校に行くことが出来ない。ケープタウンには、そのスラムが数十キロに渡り存在している。ここがソゥエトのように変わっていくには、もう少し時間が必要なのかもしれない。
今回私達は、非常に貴重な経験をすることが出来ました。南アフリカは、今、大きな変化の時を迎えています。それが、どういう方向に行くのかは、今の若者たちの意識にかかっていると思います。問題は山積みです。しかし、南アフリカの若者たちの意識は、しっかりと前を向いていました。その前を向いている彼らの意識が、純粋なエネルギーが、“絶望”に変わらないことを私は祈りたいと思います。
そして私に自分の表現の原点を思い出させてくれた彼らに感謝！！

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